これも厳密にいえば禁煙本じゃないのかな~…
でも「禁煙って素敵だな」とか「苦しいばかりじゃないんだな」と思わせてくれることで禁煙へのモチベーションを高めてくれる、という意味では禁煙本に分類してもいいのかもしれません。
文章も読みやすく、著者の温かみの伝わる文体で読後感も良く、良書だと思います。
そしてもう一つ、最新の禁煙グッズや禁煙事情を知らないまま、けっこう無理矢理に禁煙した私には勉強になる部分が多かったです…
「たぶんこんなこと俺以外はみんな知ってんだろうな~汗」と思いつつ、自分が知らなかった部分についても紹介しようと思います。
著者の高橋裕子について
著者の高橋裕子さんですが、何と日本で最初の禁煙外来を開設した人だとか。
けっこう凄い人です。
著者の高橋裕子さんは昭和29年の奈良県生まれ、京都大学の医学部を卒業、京都大学の大学院の博士課程を修了しています。
京大附属病院や天理よろづ相談所病院(天理教が出資する「憩の家」が運営)を経て、そして平成6年に奈良県の大和高田市立病院に日本で最初の禁煙外来を開設しました。
また平成10年から開始した「インターネット禁煙マラソン」の主催者でもあり、「日本きもの学会常任理事」なんて医学や禁煙とまるで関係ない肩書まで持ってます。
40の物語
『禁煙外来へようこそ こころに響く40の物語』は、その名の通り、禁煙外来に訪れた患者さんの40個の物語を綴っています。
滅多に物語らないこの禁煙ブログ「禁煙物語」よりもずっと禁煙物語です。
その中のお話の一つをご紹介しようと思います。
囲碁好きな男性の話
その喫煙者は囲碁が大好きな男性です。
同居している長男夫婦に孫の女の子が生まれました。
本当は棋士になりたかった男性は、その夢を初孫に託し、「強い棋士になってほしい」という思いから「勝子」と名付けました。
勝子ちゃんはもう幼稚園のころから囲碁をおじいさんと打つようになります。
勝子ちゃんはおじいさんの部屋を訪れては「おじいちゃん、囲碁をしよう!」と一緒に打つことをせがみました。
負けん気も強く、自分が勝つまでやめさせてくれません。さすがに真剣に打った場合には負けないのでわざと手を抜いて打って勝たせますが、それに気づくと怒り出すほどです。
ところが小学二年生になった頃、突然「おじいちゃんと囲碁するの、いや」と言い出します。
おじいさんは「子供だから飽きることもある」「そのうちまた戻ってくる」と思いましたが、勝子ちゃんの関心は楽器のエレクトーンに移り、とうとう囲碁に再び戻ってくることはありませんでした。
おじいさんは「やっぱり女の子は勝負師にはなれないのか」とガックリしていました。
孫が囲碁をやめた理由
それから8年が経ちましたが、相変わらず勝子ちゃんはエレクトーンに夢中になっていて、囲碁への関心を失ってしまったようです。
それでもおじいさんが高校生になった勝子ちゃんに久しぶりに「囲碁の相手をしてくれないかい?」とお願いしてみると、意外な答えが。
「打ってもいいけど、おじいちゃんの部屋は煙草臭いし、打ちながら煙草ばかり吹かすから嫌だ」、それだけでなく「小学生の時も、『臭いから私と囲碁している間は吸わないで』と何回頼んでも、笑ってるばかりで聞いてくれなかった」と言うのです。
おじいさんは全くそれを覚えていないのでショックを受けました。
「女の子だから無理か」と断念したのに、実は自分のタバコに原因があったなんて。
孫が何回となく頼んだのに、それが記憶にないほど自分はタバコに魅入られていたのか。
おじいさんはそこで禁煙外来に申し込んで禁煙することにしました。
無事禁煙することはできましたが、しばらくの間は後悔のし通しです。
禁煙するとタバコの匂いの臭さに気づくため、「このくささが勝子の囲碁の夢も孫を棋士にする自分の夢もつぶしてしまったんだ」と考えると、余計に鬱々とします。
それでも「タバコを吸わずに自分がどの程度打てるか、挑戦するのが楽しみ」と、最後には明るく前を向いていきました。
というお話。
私がこのお話が面白いと思ったのは、おじいさんが孫に言われたことを全く覚えていない、という点。人間というのは入ってくる情報を勝手に取捨選択して記憶を構成しているのだな、と本題と関係のないところで感心してしまいました。
女性の喫煙について
『禁煙外来へようこそ』には女性の喫煙者も出てきます。
私は以前から女性の喫煙者について不思議に思っていたことがあります。
たとえば私にはパン工場に勤めていた時期がありました。喫煙者だった私は当然喫煙所でタバコを吸いに行くのですが、そこには滅多に女性がおらず、男性ばかりです。
「女性の喫煙者はいないのだろう」と単純に考えていると、たまに喫煙所がガラガラの時に、普段来ない女性が喫煙所に来たりして、「え?吸うの?」なんて驚いたりします。
そしてその人から「本当は○○さん(女性)も吸ってるよ」なんて言われて、意外な人が喫煙者だったということを知ったりします。
男性たちへの遠慮があるのでしょうが、それはさておき、そういった経験から私が漠然と勝手に抱いていた女性喫煙者のイメージがこんなものです。
女性の喫煙者は滅多にタバコを吸わないのだから、自分で喫煙欲求をコントロールできる。
また吸う本数自体少ないのだから、ニコチンへの依存度も少ない。
だから、いざ禁煙するとしても簡単に成功する。
ところが『禁煙外来へようこそ』には禁煙外来の医師である著者の経験則として「女性の禁煙は男性より難しい」と意外なことを書いています。
女性の喫煙の本数の少なさというのは関係がないらしいです。
実際『禁煙外来へようこそ』に登場する女性の喫煙者は「1日5本」だったりしますし、そういえばアレン・カーの『禁煙セラピー』には「喫煙歴12年で1日2本」という女性も登場します(下の記事ではそのエピソードは割愛していますが)。
チャンピックスってそういう薬だったのか…
こんなこと書いたら呆れられそうですが、事実だから正直に書きます。ちょいちょい禁煙補助薬として聞くことがある「チャンピックス」ってどういう薬なのか、私は初めて知りました。
「ニコレット」とか「ニコチンパッチ」と大して変わらない、その程度の認識でした。
え? タバコを吸いながら飲み始めていい内服薬(飲み薬)なんですか?
飲み始めはすぐに効かず、7、8日するとだんだんタバコが吸いたくなくなる・・
タバコが美味しくなくなり、結果的に買いに行くのも面倒になったりする・・
そして自然に禁煙を開始できる!?
めっちゃええやん。
タバコやめたいなら禁煙外来行って処方してもろたらええんや!(何で急に関西弁?)
・・・ともかく今の時代は一口に禁煙するといっても色んな道、色んな方法があるんだな、と感心しました。
何回も禁煙を挫折している人でも「自分には無理だ」と失望する必要はないのだと思います。
最後に
というわけで自分の無知を恥じ入ることになりましたが、大変勉強になりました。
『禁煙外来にようこそ』の禁煙本としての効果は、「禁煙って素敵やん」と思えることで、禁煙への前向きなモチベーションを高められる、ということだと思います。
気になった方は是非読んでみて下さい。